2030年に向けて、包装を取り巻く環境は大きく変わろうとしています。
2024年12月、EUにおいて「包装及び包装廃棄物規則(PPWR)」が正式に採択され、EU域内で使用される包装について、「リサイクル可能な設計」を求める方針が明確に示されました。
この規則では、単に廃棄物を減らすことだけでなく、包装を設計する段階から、リサイクルされることを前提とした素材選びや構造にすることが重要視されています。
その期限として示されているのが「2030年」です。
一見すると、EU域内の企業だけが対象となる規則のように感じられるかもしれません。
しかし実際には、EU向けに製品を輸出している日本企業や、将来的な環境規制の強化を見据えて包装資材を検討している企業にとっても、無関係とは言えない動きです。
こうした流れの中で注目されているのが、プラスチック使用量の削減につながる代替素材や、リサイクルを前提とした包装設計です。その選択肢のひとつとして、「紙製素材」(機能紙)が挙げられるケースも増えています。
本記事では、「包装及び包装廃棄物規則(PPWR)」の概要と背景を整理したうえで、
脱プラスチックの流れの中で、紙製素材や機能紙がどのような場面で活用される可能性があるのかについて、できるだけわかりやすく解説していきます。
・PPWRは2030年に向け、リサイクルを前提とした包装設計を求めるEU規則
・対象は製品本体ではなく「包装」
・脱プラスチックは素材置換ではなく、設計思想の見直しが重要
・紙製素材や機能紙は有効な選択肢のひとつ
包装及び包装廃棄物規則(PPWR)とは?

PPWRの正式名称と位置づけ
PPWRとは、Packaging and Packaging Waste Regulation の略称で、
欧州連合(EU)が定めた、包装および包装廃棄物に関する新しい規則です。
EUではこれまで、包装に関するルールは主に「指令(Directive)」という形で示されてきました。
指令は、EUが示した方針をもとに、各加盟国がそれぞれ国内法として整備・運用する仕組みです。そのため、国ごとに対応内容や運用に違いが生じることがありました。
一方、PPWRは「規則(Regulation)」として制定されています。
これは、加盟国ごとの国内法化を待つことなく、EU全域で同じルールが直接適用されることを意味します。
つまりPPWRは、EUとして包装・包装廃棄物に関する考え方や方向性を、より明確かつ統一的に示した規則だと言えます。
なぜPPWRが制定されたのか
PPWRが制定された背景には、EUが抱えてきたいくつかの課題があります。
まず、EU域内では包装廃棄物の量が年々増加しており、その処理や再資源化が大きな課題となっていました。
また、国や地域によってリサイクル率や回収体制に差があり、必ずしも効率的な循環が実現できていない状況もありました。
特に問題視されているのが、プラスチック包装を中心とした環境負荷です。
プラスチックごみによる環境汚染や海洋汚染は、EU全体として早急に対応すべき課題とされています。
こうした背景を受け、EUでは「循環型経済(サーキュラーエコノミー)」への移行を進める方針が示されています。
その中でPPWRは、単に廃棄物を減らすための規則ではなく、包装を設計する段階から、リサイクルされることを前提とした素材選びや構造へと転換していくことを目的としています。
つまりPPWRは、
「使ったあとにどう処理するか」だけでなく、
「最初からどう設計するか」を重視した規則だと言えます。設計段階からリサイクルを前提とした包装に転換することが、PPWRの大きな目的とされています。
PPWRで何が変わる? 2030年に向けた包装設計の重要ポイント

2030年までに「すべての包装をリサイクル可能な設計へ」
PPWRの中核となる考え方のひとつが、
「2030年までに、EU域内で使用されるすべての包装を、リサイクル可能な設計にすること」です。
ここで重要なのは、単に「リサイクルできそうな素材を使う」ことではありません。
規則では、実際のリサイクル工程や回収インフラを踏まえ、処理・再資源化が可能であることを前提とした設計が求められています。
つまり、理論上はリサイクル可能でも、
- 分別が難しい
- 処理工程に乗らない
- 実際には焼却や埋立てになってしまう
といった包装は、見直しの対象になる可能性があります。
包装の素材選びや構造は、「使い終わった後にどう扱われるか」までを含めて検討する必要がある、という考え方が明確に示されています。
過剰包装・不要包装の削減
PPWRでは、リサイクル性の向上とあわせて、過剰な包装や不要な包装の削減も重視されています。
例えば、次のような包装です。
- 内容物に対して明らかに大きすぎる包装
- 空間が多く、資材を無駄に使っている設計
- 機能的な役割を持たない装飾的な包装
これらは、資源の使用量や廃棄物を増やす要因となるため、
今後は包装設計の見直しが求められる可能性があります。
単に「包めばよい」という考え方ではなく、
必要な機能を満たしつつ、できるだけシンプルな包装にするという視点が重要になります。


素材単一化・分別しやすい設計の重視
リサイクルを難しくしている要因のひとつとして挙げられるのが、
複数の素材を組み合わせた包装です。
紙・プラスチック・アルミなどを一体化した複合素材の包装は、
性能面では優れていても、分別や再資源化が難しくなるケースがあります。
そのためPPWRでは、
- 素材構成をできるだけシンプルにすること
- 回収・分別しやすい設計にすること
といった点が、重要な検討ポイントとされています。
包装に使用する素材は、見た目や機能だけでなく、
リサイクル工程との相性まで含めて選定することが、今後ますます求められていくと考えられます。
PPWRは日本企業にも関係ある?
EU向けに製品を輸出している場合は影響を受ける
PPWRは、EU域内で使用・流通する包装を対象とした規則です。
そのため、EU向けに製品を輸出している日本企業も、間接的に影響を受けることになります。
ここで注意したいのは、対象となるのが製品そのものではなく、
製品を包むために使用される「包装材」である点です。
例えば、
- 食品
- 日用品
- 工業製品
など、製品の種類に関わらず、EU市場で流通する際に使われる包装は、PPWRの考え方に沿った設計が求められる可能性があります。
そのため、EU向け製品を扱っている企業にとっては、
包装資材の選定や仕様について、今後見直しが必要になるケースも考えられます。
EUの環境規制は世界標準になる可能性も
EUが打ち出す環境規制や方針は、これまでも他の国や地域に影響を与えてきました。
実際に、EUのルールを参考にした制度や基準が、EU域外でも採用されるケースは少なくありません。
そのため、PPWRについても、
現時点ではEU向け製品を扱っていない企業であっても、
将来的には同様の考え方が広がっていく可能性があります。
今すぐ対応が必要というわけではなくても、
「今後、包装にどのような考え方が求められていくのか」を知っておくことは、
中長期的な包装設計や資材選定を考えるうえで有益だと言えるでしょう。
脱プラスチックの代替素材として注目される「紙」

なぜ「紙」が再評価されているのか
脱プラスチックの流れが進む中で、包装素材として改めて「紙」が注目されています。
これは、単に環境にやさしいイメージがあるからではなく、実際の回収・再資源化の仕組みが既に整っている素材であるという点が評価されているためです。
紙は、長年にわたって回収・リサイクルが行われてきた実績があり、
多くの地域で分別・再生のインフラが確立されています。
そのため、リサイクルを前提とした包装設計を考えるうえで、比較的検討しやすい素材のひとつとされています。
また、紙は木材などを原料とするバイオマス由来素材であることから、
化石資源を使用するプラスチックと比べて、資源循環の観点で評価される場面もあります。
さらに、用途によっては、プラスチックを使用していた包装を紙に置き換えることで、
プラスチック使用量の削減につながる可能性もあります。
ただし、すべての包装用途を紙に置き換えられるわけではありません。
内容物の性質や使用環境、必要とされる性能によっては、紙が適さないケースもあります。
そのため、脱プラスチックを進めるうえでは、用途や条件に応じた素材選定が重要になります。
従来の紙が抱えていた課題
一方で、一般的な紙素材には、包装用途で使用する際に次のような課題がありました。
- 水や油に弱い
- 強度や耐久性に限界がある
- 食品や工業用途では使いにくい場面がある
これらの特性から、従来の紙では対応が難しく、
プラスチック素材が選ばれてきた包装分野も少なくありません。
こうした紙の弱点を補い、
紙でありながら、より多様な用途に対応できるように開発された素材が「機能紙」です。
機能紙は、紙をベースにしながら、耐水性・耐油性・強度などの性能を高めることで、
これまで紙では難しかった包装用途への活用が検討されるようになってきました。
PPWR時代に活用が進む「機能紙」とは?

機能紙とは何か
機能紙とは、紙に特殊な加工や処理を施し、特定の性能を高めた紙素材のことを指します。
一般的な紙が持つ特性をベースにしながら、用途に応じて機能を付加している点が特長です。
例えば、
- 表面加工
- 含浸処理
- コーティング
といった加工を行うことで、紙に
耐水性・耐油性・強度・耐久性などの性能を持たせることができます。
これにより、従来は紙では対応が難しかった包装用途や、
プラスチック素材が使われてきた場面でも、紙を選択肢として検討できるケースが広がっています。
PPWR視点で評価されやすい理由
機能紙がPPWRの文脈で注目される理由のひとつは、
「リサイクルを前提とした包装設計」を考えるうえで、検討しやすい素材であるという点です。
機能紙は紙を基材としているため、
包装設計の段階でリサイクル性を考慮しやすく、
素材構成をシンプルにまとめやすいという特長があります。
また、用途によっては、
- 単一素材化や分別性の向上につながる
- プラスチック使用量の削減につながる
といった点で評価される場合もあります。
もちろん、機能紙はあらゆる用途に対応できる万能な素材ではありません。
しかし、使用環境や求められる性能を整理したうえで選定すれば、
脱プラスチックの流れの中で、有効な代替素材のひとつとなる可能性があります。
機能紙の活用が検討されている包装分野(例)
現在、機能紙はさまざまな包装分野で活用や検討が進められています。
いずれも、リサイクル性と必要な機能性の両立が求められる分野です。
例えば、次のような用途が挙げられます。
- 食品用包装紙
油分や水分を含む食品に対応するため、耐油性・耐水性が求められる用途です。
内容物や使用条件に応じて、機能紙の採用が検討されるケースがあります。 - 台紙・仕切り材
製品同士の接触防止や形状保持を目的とした台紙・仕切り材では、
強度や加工性とあわせて、分別・リサイクルのしやすさが重視されます。 - 外装包装・緩衝材
輸送時の保護や固定を目的とした外装包装や緩衝用途においても、
プラスチック資材の使用量削減を目的に、紙素材への置き換えが検討される場面があります。 - 工業製品向け包装・養生用途
部品や製品の保護を目的とした包装・養生用途では、
一定の強度や耐久性が求められるため、機能を付与した紙素材が選択肢となる場合があります。
これらの分野では、「紙であること」だけでなく、
用途に必要な性能を満たしつつ、リサイクルしやすい設計ができるかどうかが重要なポイントになります。


「脱プラ=紙に置き換え」ではない重要な視点
PPWRが求めているのは、
単にプラスチックを紙に置き換えることではありません。
本質的には、リサイクルを前提とした包装設計へと考え方を転換することが重視されています。
そのため、素材選定を行う際には、次のような点を含めて検討する必要があります。
- 実際の使用環境に適しているか
- 回収・分別がどのように行われるか
- 廃棄後、どのように再資源化されるか
これらを総合的に考えたうえで、最適な素材や構造を選ぶことが重要です。
機能紙は、こうした検討の中で、
脱プラスチックやリサイクル設計を進めるための有効な選択肢のひとつとして位置づけられます。
あらゆる場面で最適解となるわけではありませんが、用途によっては現実的な選択肢となる可能性があります。
機能紙選定ナビができること
機能紙選定ナビでは、包装や資材に関する検討を進める中で、
「どの素材が適しているのか分からない」「脱プラを検討したいが判断が難しい」といった課題に対して、情報整理と検討のサポートを行っています。
具体的には、用途や課題に応じて、次のようなサポートを行っています。
- 機能紙の特性・用途に関する情報整理
紙素材や機能紙について、それぞれの特長や適した用途を整理し、検討しやすい形で情報を提供しています。 - 脱プラスチック・包装見直しに関する相談対応
現在使用している包装資材を見直したい場合や、
プラスチック使用量削減を検討している場合など、検討段階でのご相談にも対応しています。 - 「紙でできること/できないこと」を整理したご提案
紙素材が適しているケースだけでなく、
紙では対応が難しい場合についても含めて整理し、用途に応じた判断材料を提供しています。
無理な素材置き換えを前提とせず、
用途・条件に合った現実的な選択肢を検討するための情報提供を重視しています。
まとめ
「包装及び包装廃棄物規則(PPWR)」は、
単なる環境規制ではなく、包装設計そのものの考え方を見直すことを求める規則だと言えます。
2030年に向けて、包装にはこれまで以上に、
リサイクルを前提とした素材選定や構造設計が求められていくと考えられます。
その中で、機能紙は、
脱プラスチックやリサイクル設計を進めるうえでの現実的な選択肢のひとつとして、今後さらに注目されていく可能性があります。
重要なのは、特定の素材に置き換えること自体を目的とするのではなく、
使用環境や回収・再資源化までを含めた視点で、最適な包装を検討することです。
本記事が、今後の包装資材や素材選定を考える際の参考になれば幸いです。

























